「夫婦の愛と絆――心に響く物語」を宣伝文句にした映画「明日の記憶」は若年性アルツハイマー病に襲われた夫と、その夫を懸命に受け止め、慈しみ、労わる妻を描き出し、「人を愛すること、そして一緒に生きていくこと」を人々に問いかけようとするが、私の心に一番印象深く残っているのは少なく登場している「親子の愛」のシーンであった。多分、私も娘の梨恵と似たような思いを経験したからだろう。

発病する前の主人公の佐伯は典型的なサラリーマンで、仕事だけに集中し、家族のことを少しも頭に入っていなかった。娘のピアノの発表会を見に行く約束を破ったようなことはよくあり、「どうせ、私のことなんてどうでもいいと思っているでしょう」と、梨恵は佐伯に叫び、つい堕落し始めた。その叫びも私の心を刺し透かすように響いた。私もいつか心の隅に「お父さんが私のことを愛していない」と疑ったことがあるから。若かった私は期待できない父からの愛を父への憎しみという形に変え、梨恵のようにいつも父との間に距離を置き、冷淡に対応していた。

婿の名前さえ思い出せないほど病状が進んでいるにもかかわらず、梨恵の結婚式の挨拶で佐伯は涙に咽び、ものが言えなくなった。人前で泣いたことのない老父が男の面子なんかを捨てて流した涙は娘への愛をなにより有力に表していると思う。私の父は結婚式に出席した度毎に、頼んでもいないのに必ずその披露宴のことを詳しく私に報告する。式場がどんな風だったとか、どんな料理が出されたとか、花嫁の父親がどんなことを言ったとか。「お前の結婚式を必ず最高のものにさせるから、早く結婚をしなさいよ」と父が何時も口にしているのは、ただの見栄えのためだと私は今まで思い込んでいた。でも、佐伯の涙を見て、父がどんな思いでその台詞を言っているのかは少しわかるようになった。

私はかつて、公園のベンチにぼんやり座っている年寄りとすれ違うたびにいつも嫌な目でその人たちの姿を眺めていた。正直、軽蔑さえした。でも、家に篭り始めた後の佐伯を見ていると、私は心を痛めた。佐伯はますます老人になってしまった。表情が硬くなり、目の動きが鈍くてどろんとしている。「父も老後こんな風になってしまうかしら」という不安が私の胸を不意に掠めた。全ての愛を最後まで夫に捧げた妻のように、私は定年後の父に何かできるのかを反省させられた。

DVDの表紙に「いま、妻に「ありがとう」の言葉を」という句があるが、「ありがとう」をいますぐお父さんに伝えたい。

明日的记忆明日の記憶(2006)

又名:明日之记忆(港) / Ashita no kioku / Memories of Tomorrow

上映日期:2006-05-13(日本)片长:122分钟

主演:渡边谦 樋口可南子 坂口宪二 田边诚一 袴田吉彦 吹石一惠  

导演:堤幸彦 编剧:砂本量

明日的记忆的影评